粟田口霑笛竹(あわだぐち しめすふえだけ)~林家彦六・古今亭志ん生






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名刀 粟田口国綱を取り戻せ

粟田口霑笛竹(あわだぐち しめすふえだけ)~林家彦六

【音声のみ】林家 彦六(8代目林家 正蔵) 「粟田口霑笛竹(あわだぐちしめすふえたけ)」

佐賀町河岸

正月の五日、深川万年町の刀屋岡本政七の番頭 重三郎が、芝の金森家から預かって研ぎ上げた刀を納めますと、重役の稲垣小左衛門が自ら出てきて褒められ、今度は金森家の家宝、粟田口国綱の刀の研ぎと鞘の塗り柄糸の巻き上げなどの修理を頼まれます。

刀を預かって帰ろうとしたところ、稲垣小左衛門に酒を勧められて「酒は断っている」と断りますが、折角だから屠蘇祝いだけしろと言われ三合の大盃で三杯、後は小さい盃でと勧められるままに飲んでしたたかに酔ってしまいます。

佐賀町河岸まで帰ってきましたが、そこで座り込んで動けなくなってしまい、小僧の定吉は店の者を呼んでくると行って店に戻ります。

一人になった重三郎、そのまま寝込んでしいますと五、六間先で駕籠から降りた黒装束に身を包み、山岡頭巾を被った侍が重三郎に近づき、刀を入れた風呂敷を奪おうとします。重三郎は目覚めて取り返そうとしますが、男に斬りかかられ、足をすべらせて川に落ちてしまいます。

侍は風呂敷包みを開けて刀箱から刀を取り出し、風呂敷も刀箱も川へ蹴り落とします。近くにいた駕籠屋に気付いた侍は「小菊や煙草を買ってきてくれたのか。今のを見たであろうが他言は無用」と言い、駕籠屋が承知をすると、褒美をやろうと駕籠屋を近くへ呼び、斬って川の中に落としてしまいます。

定吉が小田原提灯を持って店の者を連れて来ますが、黒装束の侍が抜き身をさげているのを見て逃げ出してしまいます。河岸に荷足船(にたりぶね)がもやってあり、中に”荷足の仙太”(にたりのせんた)という男が一部始終を見ていましたが、侍が刀を収めたのを見て板子を一枚持って近寄り、侍の背中から腰をめがけて板子を打とうとしますが侍は体をかわしてまた刀を抜きます。仙太は慌てて船に逃げ帰って船を出し、万年橋の下でようやく一服つけております。

一方、川に落ちた重三郎は、泳ぎが得意であったためどうにか岸に上がって、その万年橋の上におりましたが、自分が酒を飲んだために店にも金森家の稲垣小左衛門にも迷惑を掛けてしまった。ここから飛び込んで死のうと思ったが泳ぎは得意なので水では死ねない。帯を解いて欄干に巻きつけて首を吊って死のうとしますが、下で聞いていた仙太が重三郎の体を抱えて助けます。

仙太は盗った奴を探してから命を落としても遅くはない、自分は芝伊皿子台町にいて、若い者が二十人ばかりいる。子分に話をして一緒に探そう船にのせて芝口に上がり、仙太の行きつけの居酒屋に入って暖かい物を頼みます。そこに、酒をくれと入ってきたのは駕籠屋の安。「今夜ほど驚いたことはなかった」と話すのはさきほどの佐賀町河岸の一件。

新橋で黒ずくめの侍が深川の木場までやれというので乗せ、霊岸島まで来ると、大黒屋で鰻を食べたくなったからと言い出すので店の前で駕籠を止めた。もう日の暮れだったから鰻屋も仕舞い支度でいい顔はしなかったが、ぜひと頼まれて俺たちもご相伴に預かった。

それからまた駕籠を掻き出して佐賀町河岸まで来ると、侍が大黒屋に紙入れを忘れたから取りに行って来いと言われ、俺が大黒屋へ行くと「お客が忘れたものは紙切れひとつ動かさずにそのまま置いておく。言いがかりだ」と怒られた。

佐賀町河岸に戻ってきたら、侍が相方を斬って川の中に放り込んだ。俺は腰が抜けたが横へ転がって永代橋まで行ったが、転がり落ちてもいけないとなんとか四つん這いになって渡った。と話します。この話を聞いていた二人、駕籠屋の安を仲間に入れて刀を探す事になります。

国府台の紅葉狩り

千葉の市川にある国府台(こうのだい)は春は桜、秋は紅葉の名所で、その真間(まま)の根本というところに荒物屋が開業します。

この荒物屋の主人は、元、金森家の重役 稲垣小左衛門で、粟田口国綱の名刀を紛失した責任をとって暇を出されて浪々の身となり、大勢の家来にも暇を出しましたが、忠義な家来の丈助が自分の故郷の空き家を借りて荒物屋でも始めてはどうかと勧めて一緒にここへ移りました。

丈助は朝から晩までよく働いて、店は繁盛しています。秋のある日、二人が八幡八幡宮に参拝した帰りに長持ちを担いだ雲助とぶつかって喧嘩になり、丈助がしたたかに殴られてしまいます。

小左衛門は新陰流の達人でもあり、瞬く間に雲助を手玉にとり、雲助のかついでいた荷物を調べますと中に高手小手に縛られた娘がいる。この娘を家に連れて帰って身の上を聞いてみると、浅草田原町で一刀流の道場を開いている石川藤左衛門の娘で、息子小三郎の許嫁の”みえ”とわかります。

父親は鉄砲に撃たれて死に、親類を訪ねるために勇助という年寄りと一緒に家を出たが駕籠かきにかどわかされた時にはぐれてしまったという。それからみえを家に置いて、勇助を探させましたが五日経っても行方がしれません。

百姓の清助が訪ねてきて、稲垣小左衛門と丈助に紅葉狩りに行こうと誘います。弁当と酒を用意して三人ででかけ、大見堂の近くで毛氈を広げて弁当を食べて酒を飲みながら見事な紅葉の中で見ておりましたが、小左衛門は懐から一節切(ひとよぎり)笛を取り出し、崖下の江戸川を向いて吹きはじめます。

そこへ大見堂から姿を表した黒装束の侍が小左衛門に忍び寄り、腰に手をかけて崖から川へ突き落とそうとします。小左衛門が体をひねって侍の頭巾に手をかける。侍が松の根方にすがったので、頭巾だけが取れて小左衛門は片手に笛、片手に頭巾を持ったまま川へと落ちていきます。

侍は百姓の清助も斬って江戸川に放り込みますと、立ち去っていきます。丈助は参道の裏に行き「大野様、うまくいきましたねぇ」と侍に声をかけます。

「小三郎の許嫁のみえは、刀の詮議のために二百両の金がいると話して吉原にでも売りますので、大野様のご自由に。また、ほとぼりがさめた頃に、あの粟田口国綱を持って金森家へ行けば重役に返り咲くこともでき、丈助も士分にとりたてられる。しかし、あなたはまことに見上げた悪党でございますねぇ」と笑います。

主人に忠義を尽くすとみせかけて、その裏腹の行いをするそちは、極悪人とでもいうか。「見上げた悪党に極悪人、よい添い物でございますな」と笑いながら立ち別れます。今まで忠義一途の丈助と思いのほか、敵 大野惣兵衞に加担をしているという極悪人が、忠義の家来と思い込んで手元へ置いた小左衛門はまことに不運でございます。

丈助の最期

昔、吉原では火事が出ても火消しは手出しをしませんでした。火事で焼け出された娘達はその間楽ができる。知人の家で暮らしていても差し支えがない。

一方遊郭は吉原が再興されるまでの間、方々に仮見世を出します。山口屋が深川仲町に仮見世を出しますと、吉原の見世が来たというので皆、深川に詰めかけ、そのため客層が落ち、質の悪い客も多く来るようになります。

この山口屋で人気の音羽花魁が、小三郎の許嫁のみえ。小三郎が刀の詮議のために二百両の金が必要だという、丈助の偽手紙によって自ら吉原に身を沈めていました。そこに丈助が尋ねてきて「二百両の金で刀は回収した。それを金森家に届けて帰参をするのにはお供揃いをして出掛けるために、高輪の船宿で二階で待機しているが、その費用に百両かかる」と言います。

音羽は、今の身の上では工面できない。どうしようかと思案していたところへ新造が入ってきて、目の悪い若いお客さんが着替える時に懐から百両の金を落とし、あわてて仕舞った事を音羽に告げます。音羽は「お気の毒だがそのお客が帰る時に殺めて百両の金を調達しておくれ」と、丈助に言います。

丈助が襖を少し開けて廊下を通る若者を見ると、その若者は小三郎。小三郎を殺めてしまえば天下に怖いものはなくなると、後をつけて木場の材木置き場に来ると、刀を抜いてそっと近づき、右の肩口に切り込みます。

しかし、小三郎も神影流の達人で目は見えないがピタリと身構えると隙きがない。また大回りをして後ろに回って今度は左の肩口へ。小三郎が振り回す刀に近寄れずにいますとこちらへ向かってくる足音が聞こえてきて、丈助は逃げ出します。

やって来たのは音羽。金が必要だと言われてとっさに丈助に人を殺めるように言ったが、後で大変な事を言ってしまったと思い、急いで後を追ってきたものでした。小三郎は、音羽が石川の娘みえだと知っており「百両の金と手紙を布団の中に置いて来た」のだと言います。

右と左の肩口を斬られたが、浅手なので心配はいらない。自分は今、扇橋に住まいを持っているので一緒に来いと二人で家に向かいます。小三郎の住まいに行くと、刀を盗られた岡本屋の重三郎、荷足の仙太と安が居ます。

音羽は足抜けになってしまったので仙太達が身請けの算段をしてくれる間、ひとまず身体を隠すほうがよいと言われ、小三郎と二人で矢切村に住むみえの乳母 おしのの所に向かいます。おしのは二人を快く迎えていつまででもよいからいてくれてかまわないと言います。

このおしのが丈助の母親で、みえは、丈助に刀を取り戻すために二百両が必要だと言われて吉原へ身を売り、また、昨夜刀を金森家へ持っていくために百両の金が必要だと言われて、小三郎を殺めて百両の金を盗ってくれと丈助に頼んだが、手紙とお金を見てびっくりして駆けつけたら丈助が小三郎に斬りつけていたと話します。

そこへ丈助が訪ねてきて、近々に金森家に刀を返しに行き、自分も帰参して士分にとりたてられることになった。ついてはおしのも引き取って面倒を見ると言い出します。帰参については金がいるだろうからと、おしのは二両を丈助に渡しますと、丈助は父親の持っていた脇差しが欲しいと言います。

おしのが脇差しを持ってきて鞘から抜き、長らく手入れもしていないがところどころに青い錆がついているだけ。青い錆の出る刀はよく斬れるという、と言うが早いか、その脇差しで丈助の脇腹を刺します。

丈助は苦しい息の中、二百両の金は自分が着服した。稲垣小左衛門を殺すてはずを決めたのも、刀を奪い盗らせたのもすべて自分の手引きであったことを告白し、相手は大野惣兵衞で八橋周馬と名を変えて堀切に住んでいると話し、小三郎の介錯で往生します。

小三郎が大野惣兵衞を追って父の仇を討ち、粟田口を取り戻して金森家に帰参がかないます。

覚書

明治13年頃、大圓朝がある宴席で「国綱の刀」「一節切」「船人」の三題をもらって即興で作り上げた噺がこの落語のもとになっています。

後年「澤紫ゆかりの咲分」(さわのむらさきゆかりのさきわけ)、三十年を経た大正末期には「花菖蒲澤の紫」(はなしょうぶさわのむらさき)改め「粟田口霑笛竹」(あわだぐち しめすふえだけ)の題で全45段という大長編に仕上げられて世間の評判をとりました。

この林家彦六の口演は、この「花菖蒲澤の紫」を3話にまとめて、谷中全生庵の圓朝祭りに合わせて一年に一話、三年越しで高座に掛けたものです。

元の本では登場人物が数多く出てきてそれぞれが複雑な因縁で結びついているのですが、45の話を3話にまとめていますので、たとえば荷足の仙太は最初と最後にか出てきませんし、大野惣兵衞が唐突に現れて「帰参がかなう」などと言う場面などで、そんなことは知らねぇよという向きもありましょう。

この大野惣兵衞は、金森家で三百石をとっていた重役で、行いが悪いために暇をとらされたのを稲垣小左衛門の告げ口によるものだと逆恨みをして今回の企みをします。

また、かねてから小三郎の許嫁 みえに横恋慕をして何かと言い寄りますが相手にされず、その父 石川藤左衞門を鉄砲で撃ち殺したのもこの大野惣兵衞。小三郎とみえにとっては両方の父親の仇ということになります。

落語 粟田口霑笛竹 ディスコグラフィ

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