怪談 累草紙(かさねぞうし)「親不知の場」~林家正蔵


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誰やら後ろに・・

怪談累草紙「親不知の場」~林家正蔵

堀越与右衛門

巣鴨鶏聲ヶ窪(けいせいがくぼ) 吉田監物の奥家老の堀越与左衛門の次男 与右衛門は、十一歳で越中の郷士のところへ世継ぎにやられ、そこで十年を暮らしていました。

二十一になるとさすがに江戸が恋しい。実の親にも会いたいと言うところから養家を抜け出て、実父が形見にくれた関野兼吉の差し添えを持って江戸へでかけます。

十年経って親子の名乗りをしようと言うにはこの脇差しがただ一つの証拠となる大事な品物。

与右衛門とお磯

泊まりを重ねて宇多宿の菊屋という宿屋に泊まり、二階の上段の間に案内されて、一本酒を飲み、女中と世間話をしていると、下の座敷から上方歌が聞こえてくる。声音といい音締めといい、実にえもいわれない巧み。
この女性の声に、姿形も見ないのにぞっこん恋慕をしてしまいます。

女中に聞けば江戸の生まれで、お磯と言って歳は十九。能登の七尾に行く途中で、この主の世話になって長逗留をしているという。食事が終わって厠へ行こうと下の座敷の廊下のところを歩き、確かにこの座敷だと襖の合せ目から中をのぞくと、女は床の中に入っていて向こうを向いて寝ている様子。厠へ行って帰り、どうにも部屋を通りきれず再び部屋をのぞくと明かりがパッと消える。

この女のところへ忍んで行けと言う神のお告げかと勝手に解釈して中に入りますと、唄の主は起き上がって「どなた様、すぐ出ていかなければ大きな声で人を呼びます」と言います。自分は江戸の侍で「唄に惹かれて恋心を覚えた。拙者の思いを叶えさせてくれ」と真剣である証にと大事な脇差しを渡します。

二目と見られぬお磯の顔

翌日、宿の主人を呼び、お磯と一緒になりたいと言います。主人に連れられてお磯を初めて顔を見て驚いた。髪がほとんどなく目も見えず、顔は病と火傷でひどいありさま。小さい時に松皮疱瘡にかかり、その上煮え湯を浴びて二目と見られぬ不器量になったという。

大変な女と夫婦約束をした、向こうは目が見えないのを幸いに、途中で脇道へそれてしまえばよいかと思いましたが、大事な脇差がお磯の手にある。

お磯殺し

急ぐ旅だからと宿を出て、途中で一服し、与右衛門がお磯に「頼みがある」と言いますと、「何事にも旦那さまには背きません」と答えるお磯。それでは、とお磯に脇差しを返してくれと頼みますが、江戸に着くまでは自分が守護しますと断られます。

「夫の言いつけに背く女房 離別いたした。いずれへなりとも失せろ」と言う与右衛門。今捨てられては露頭に迷ってしまうと泣き崩れるお磯。与右衛門は懐剣の刀身を黙って抜き取りますと、お磯が刃をつかんで離しません。与右衛門が指がばらばらになるぞと脅しても、この刀ばかりは渡せないとお磯。

与右衛門は南無阿弥陀仏と言いながら刀を引くとお磯の指は切れてしまいます。「そんな顔とは露知らず言い交わしたが互いの災難。その手では三味線も杖を持つことさえもかなわぬ。いっそ楽にしてやろう」とお磯を斬り殺して川へ投げ込んでしまいます。

少しも早く江戸を目指してと歩きだす与右衛門「誰やら後ろに・・」

覚書

歌舞伎でもおなじみの”累(かさね)もの”で、二代目 三遊亭圓生作。弟子の圓朝がこれをさらに進化させて『真景累ヶ淵』につながっていきます。

圓生作のものは他に『雨夜の引窓』『畳水練』が圓朝全集に収められています。

殺しの場面では後の定式幕が落とされて背景が海辺の崖(親不知の崖)の景色になり、この前での立ち回りのあと背景が一転して農村の風景になります。

芝居噺は独演会でもあまり聞くことができませんが、早稲田大学の坪内博士記念演劇博物館が主催する「正本芝居噺映像記録会」で、正蔵門下の林家正雀や八光亭春輔などが口演しています。

落語 怪談累草紙 ディスコグラフィ

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