『お笑い・漫才芸人列伝』
古今東西のお笑い・漫才芸人の貴重な映像・音声を集積。
明治・大正・昭和・平成・令和の数々の芸人を、映像と音声で紹介します。
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お仲無残
吉原綺談(上・中・下)芳原奇談雨夜鐘より~古今亭志ん生
お仲の境遇
下谷長者町の八文湯から出てきたお仲。歳は十七で大変な美人。その後ろ姿を見送っていたヤクザの権次。「いい女だ。あんないい女を磨いていい成りをさせればたまらない」とお仲の後をつけて、摩利支天の裏長屋に入っていきます。
女が家に入るのを見届けて、権次は兄貴分の長次のところへ行ってお仲のことを話しますと、兄貴分もお仲を知っており「お仲のことを考えて昨日は寝られなかった。ただ、色気ではなく欲気だ」と言います。お仲の父親は下谷仲町の骨董屋 常陸屋喜右衛門という人で、十五六人の奉公人を使う大きなお店。あの娘はお仲という名前で弁天娘と言われたお嬢様だった。
盗人が入って有り金は残らず盗られ、その上火事で焼け出されて今は裏長屋住まい。生活が苦しいので、喜右衛門が口入れ屋の第六天の雀屋に、お仲の旦那を世話してもらえるよう頼んでいると昨日聞いて何か金儲けの工夫はないかと考えていたのだと言います。
権次と長二の企み
「こっちで旦那を拵えてお仲を引っ張ってきて、売れば二百両や二百五十両にはなる」と話しているところへ、御家人の息子で美男子でもありながら、どうしようもない遊び人 森信之助が入ってきます。長二が信之助に企みを話して、一口乗らないかと言いますと信之助は一も二もなく承知します。
翌日、信之助は髷を結い直して着物を整え、加賀様の家来 鈴木時左衛門の息子 鈴木時次郎という名にして、権次は雀屋の若い者に仕立ててお仲のいる長屋へと向かいます。
お仲と信之助
雀屋の若い者になりすました権次は、朝のうちにお仲の親に挨拶をしに行き、夜に時次郎を連れて来ると言って帰ります。夜。時次郎を伴って再び長屋を訪れた権次、時次郎は二階へ通されます。お仲はどうせ金づく、醜い男だと思っていたが、一目信之助を見て心を奪われてしまいます。
父親の喜右衛門はお仲を二階へ呼び、自分は頃合いをみて下へ降ります。お仲のお酌で酒を呑む信之助。お仲の手をとって引くとお仲は信之助の胸の中へ。
お仲の代わりに刀を売り払う
それから毎晩のようにお仲のところへ通う信之助。長二と権次に早く連れ出せと言われますが、あまりによい娘で情が移り、なかなか連れ出すことができません。
ある日、お仲の父親 喜右衛門に、質屋を営む萬屋が刀の目利きをして欲しいと持って来ます。質料に五十両出したという萬屋。五十両で売れればよいと言いますが、喜右衛門は、捨て売りでも百五十両、注文になったら二百五十両で売れる名刀だと鑑定します。
喜右衛門は、萬屋の目が利かないのを利用して自分が儲けてやろうと「五十両でよいなら自分が知っているところに話をしてみましょう」と言って刀を預かり、信之助にどなたか買ってくれる人がいないかと相談します。信之助は親類に欲しがっている者がいると言って刀を預かり、お仲をさらって金にするより手っ取り早い。これ幸いと刀を百五十両で売り払い、三人で五十両ずつ分けて逃げてしまいます。
お仲 吉原へ身売り
萬屋からは刀を返すか五十両を渡すかと矢のような催促。信之助はあれから顔を見せず、加賀様に問い合わせると鈴木時左衛門という家臣はいないと言う、雀屋に問い合わせますとまだ旦那は世話していないと言う。
これは騙されたと思ったが後の祭り。喜右衛門の窮状を見かねたお仲は吉原に百両で身を売って金を作ります。
信之助の改心
吉原の橘楼に出たお仲は、”橘”という暖簾名をもらい、飛ぶ鳥を落とす勢いで評判になります。その頃、信之助の父親が亡くなり、叔父が跡継ぎが居なければお家断絶になる。信之助を呼び戻して跡を継がせようと探し回り、品川の問屋場にいると聞いて手紙をやり、説教をして呼び戻します。
遊びも苦労もしつくしてきた信之助。改心して跡を継いで数年後、廻りからも評判のよい立派な武士になっています。ある日、信之助が通う剣術道場の鏡開きが行われ、誘われて四人で吉原に繰り込みます。吉原まで来ると、橘楼の前に橘花魁を一目見ようという黒山のひとだかり。普段は見世で顔を見ることのない橘花魁が、今日は出ているという。あわよくばとこの橘楼へ上がりますと、おばさんが世話をしてくれます。
信之助とお仲の再会
おばさんが出した札を引き、信之助が札を見ると橘の名前。皆が羨む中、花魁達が部屋に入ってきます。信之助が入ってきた橘花魁の顔を見るとなんとお仲。なぜお仲が橘という花魁になったのだろうと思いますが、自分が傷物にしてあの刀を売り払ったせいと気付きます。
お仲は信之助を見て顔色が変わり、部屋から逃げてしまいます。禿が信之助を呼び、奥まった部屋に通されます。役人に捕まることも覚悟した信之助でしたが、お仲が部屋に入ってきます。信之助は、お仲をさらって売ろうという企みであったが、それが嫌で刀を売ったと話し、役人を呼んでくれてもお前が私を殺してもよいと手をついて謝ります。
お仲は「くやしい~!」と信之助の胸ぐらをつかみ、「お前くらいひどい人はない、お前さんが刀を取って逃げたために私はここへ身を沈め、母親はそれを悔い病んで亡くなり、父親も亡くなった。親の仇、私の仇だ。けれど私はお前さんが好きなのよ」と橘。
橘の死
お仲は年が明けたら女房にしてくれ、信之助も願ってもないと起請を取り交わします。ある日、信之助のもとに叔父が訪ねて、組頭の娘 お梅がお前に恋煩いをして寝込んでしまい、お前と一緒になれなければ死んでしまうと言っている。組頭の婿になれば出世も早いと勧めます。
信之助はお仲の件は言い出せず返事を濁していましたが、叔父はもう決めてきたから一緒になれと言い、仕方なく承知します。信之助は、一緒に吉原に行った二人の若侍に、橘との別れ話をまとめてくれと頼みます。
二人から話を聞いた橘。「悔しい。あの人はどこまで私を騙すのか」と髪を掻きむしり、柱に額をぶつけて額を割り、舌を噛み切って息が絶えてしまいます。二人の侍は急いで吉原を後にします。雨が降ってきましたので傘と提灯を借り、吉原田んぼへかかってきますと、強い風に灯が消えます。後ろにパッと灯りが差して後ろを振り返ると、橘楼辺りから人魂が飛んでくる。
びっくりして走り出すと傘が重くなる。見ると人魂が傘の上の乗っている。傘を投げ捨て、屋敷に走り込みます。二人がひどい目に合ったとほっとしていると、洗い髪の女が入口に立っているのが見える。どうしたのかと声をかけるとこれが橘。腰を抜かしながら信之助を起こして事のいきさつを話します。
不憫であるが致し方ないと信之助、時間と共にだんだんと橘の事を忘れるにようになり、恋煩いのお梅も元気になって、婚礼の晩となります。
信之助 お梅の婚礼
暮れ六つの鐘が鳴ると、晴れていた空に雲が出て激しい雨になります。信之助の叔父は、屋敷が暗いとロウソクを点けさせます。花嫁が屋敷に着き、料理も出されましたが蛤の吸い物がいつまでも出て来ない。料理番に聞くと、年頃二十五六の洗い髪の女が来て「吸い物は私がお持ちします」と持って行ったという。
屋敷を探すと中間の吾助が二畳の小部屋で酔いつぶれている。聞くと洗い髪の女に「”男の仕事は終わった”と言われてお酒をもらい、女が蛤の吸い物ばかりを持ってきて食べさせられた」と言います。仕方がないので料理番に新しく蛤のお吸い物を作らせて宴席に振る舞います。
いよいよ式になり、信之助が花嫁の盃に酒をついでやろうとした時、パチンと音がして、花嫁の綿帽子から信之助が橘に拵えてあげた比翼の紋が入った櫛が落ちます。さては橘が婚礼の邪魔をしているかと思った信之助、黙ってこの櫛を懐にしまいます。
式が終わり、女中が床の用意をしに行くと、洗い髪の女が床の側で立っている。どこのお方かと顔を見るや悲鳴を上げます。声を聞きつけた者が何だと聞くと怖い女がいたと言いますが、目出度い席だからとなだめて床をのべます。
橘の死霊がお梅に
花嫁と二人になりますと、灯りがすっと暗くなり、屏風の影から洗い髪の橘が「あ~、羨ましい、うらやましい。あははは」と笑ったので、花嫁は驚いて気を失ってしまう。驚いた父親が部屋に入ると、お梅に橘の霊が乗り移ったか「信之助と言う人は随分ひどい人じゃありんせんか。わちきを騙して悔しい」と言って信之助につかみかかります。
これはおかしいと父親がお梅を自宅に連れ戻すともとに戻り、また信之助のところへ行くと「悔しい」とはじまる。何か訳があるのだろうと父親が信之助に聞き「武士が死霊くらいに惑わされては武士道が立たない。わしが封じてやる」と芝神明の弁財天に死霊を封じ、夫婦仲良く暮らしたという。芳原綺談雨夜鐘と言う一席でございます。
覚書
『芳原奇談雨夜鐘』(よしわらきだん あまよのかね)。明治二十四年に発刊された扇屋さん馬(おそらく五代目)の口述筆記によると、全八話の長編です。
志ん生はこれを上中下の三話にまとめて『吉原綺談』として口演していました。悪人が得をして善人が損をするのが世の習い。因果応報よりも実話的な話で思わず身震いしてしまいます。
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