禁演落語とは
戦時中の昭和16年10月30日から終戦後の昭和21年9月30日までの5年間にわたって、浅草本法寺の「はなし塚」に葬られ口演を自粛した53の落語です。
本法寺の外壁には歴代の噺家やTV局、放送局などの名前がぎっしりあり、境内にひっそりと塚が建てられています。
廓噺、飲酒、間男や悋気などの艶笑落語、不道徳、残酷などが対象でしたが、親子や夫婦の情を描いた人情噺も対象になりました。
今では廃れてしまった噺もありますが、数々の面白い噺が禁じられて当時の落語家は寂しい思いをしていたことでしょう。
そして、戦後になった昭和22年5月、GHQから仇討ちや婦女子を虐待する演目を禁止する指令があり、再び20の演目がこの「はなし塚」に葬られ、GHQの占領が終わる昭和28年までの7年間に渡って自粛は続きました。
廓噺(31話)
遊郭の噺などはもってのほか。最も多く封じられたのが廓噺(31話)でした。
明烏 | 晩生(おくて)で、本ばかり読んでいる若旦那の時次郎を吉原へ連れ出し | 桂文楽・古今亭志ん朝・立川談志・金原亭馬生・三遊亭圓窓・古今亭圓菊他 |
けんげしゃ茶屋(あわもち) | 粟餅を新町の茶屋に持ち込んだ旦那が「腹が痛いオマルを持って来い」と言いますが断られて | 桂米朝・桂文珍 |
磯の鮑 | 熊五郎に女郎屋に行って儲かったという話を吹き込まれた与太郎。ご隠居のところで指南を受けて吉原に向かいます | 三遊亭兼好・林家けい木 |
居残り佐平次 | 貧乏長屋の連中を連れて品川遊郭に来た佐平次。勘定を催促されると、連れが持ってくると言って取りあいません。 | 三遊亭圓生・古今亭志ん朝・ 古今亭志ん生・ 桂文朝 |
お茶汲み | 吉原の安大黒に上がった男、相方の花魁が部屋に入るなり悲鳴を上げて逃げ出してしまいます。 | 桂歌丸・古今亭志ん朝・柳家小三治 | おはらい | 浅草雷門脇の磯辺大神宮が吉原通いの連中の話を聞き、門跡と一緒に吉原へ |
お見立て | 吉原の喜瀬川花魁のもとへ毎日のように通って来る地方人の杢兵衛さん。喜瀬川はこの男が嫌でたまらない。 | 古今亭志ん朝・春風亭柳好 |
廓大学 | 遊びが過ぎて怒られ、二階に閉じこもった若旦那。漢学の「大学」を読むふりをして「吉原細見」を読み上げて | |
五人廻し | 売れっ子の花魁喜瀬川を待っていますが夜が更けても一向に現れない。 … | 三遊亭圓生・古今亭志ん生・古今亭志ん朝・立川談志・林家正蔵・柳家さん喬他 |
五銭のあそび(白銅の女郎買い) | 男が昨日は五銭で女郎遊びをしてきたと話しています。 | 古今亭志ん生 |
首ったけ | 吉原へ毎日のように出かけている辰つぁん。敵娼(あいかた)も紅梅と決まっていて、見世を出る時にはいってらっしゃい、仕事を終わって行くと、お帰りなさいというくらいの馴染みになっています。 | 三遊亭円歌・古今亭志ん生・志ん朝 |
三枚起請 | 花魁と起請誓紙を交わしたと喜ぶ喜六だが | 桂米朝・古今亭志ん朝・古今亭志ん生・桂文枝・柳家さん喬 |
三助の遊び | 湯屋の釜が割れてしまい、休みになった釜焚きの男が幇間の次郎八と吉原に出かけます。 | |
三人兄弟(三人息子) | 三人兄弟が揃っての極道者。二階で謹慎となりますが夜中に抜け出して・・・ | 橘ノ園都・柳家小里ん |
卯の日参り(三人片輪) | せむしの若旦那に気をつかって、顔に梅干を貼ってかったいになりすました町幇間の磯七が住吉へお参りに行き、お茶屋に繰り込みます | 桂米朝 |
品川心中 | 品川遊郭の白木屋の板頭 お染もトウが立って来まして | 三遊亭圓生・古今亭志ん朝・立川談志・金原亭馬生・春風亭柳朝 |
辰巳の辻占(辻占茶屋) | あるお店の若旦那 猪之助。辰巳の遊女お玉のもとへ通いっぱなしで家に帰るのは月に二、三日。 伯父に呼ばれて、お前は騙されている。そうでないということが分かれば … | 春風亭小朝・桂文枝・金原亭馬生 |
付き馬(早桶屋) | ある男、吉原でバカ騒ぎをした翌朝、牛(ぎゅう・店の若い衆)が部屋に入ってきて勘定の催促をします | 古今亭志ん朝・三遊亭金馬・古今亭志ん生・立川談志・三笑亭可楽 |
突き落とし(棟梁の遊び) | 金の無い連中が集まって、一銭も払わずに吉原で遊ぼうという悪知恵をめぐらせます … | 古今亭志ん朝・ 古今亭志ん生・ 柳家さん喬・ 桂文枝・ 桂米朝 |
つるつる | 吉原の幇間 一八。芸者のお梅に四年半越しで岡ぼれしています。お梅に言い寄ります | 桂文楽・古今亭志ん生・立川談志 |
とんちき | 嵐の日ならモテるだろうと雷の鳴る日を選んで吉原へ行った男。同じ考えの男が何人も・・ | |
二階ぞめき | 家の二階を吉原そっくりに作り替えて | 古今亭志ん生・立川談志 |
錦の袈裟 | 隣町には負けられねぇ。なぁ与太郎! … | 古今亭志ん朝・柳家喬太郎・三遊亭金馬・三遊亭圓生・三遊亭圓楽 |
ひねりや | 町内一のひねり屋(あまのじゃく)素根右衛門が、本ばかり読んでいる息子の素根吉を吉原へ連れ出します | |
文違い | 落とした手紙を見つけることで次々と嘘がばれていく | 古今亭志ん朝・古今亭志ん生・三笑亭可楽 |
坊主の遊び(剃刀・坊主茶屋) | 息子に家督を譲った楽隠居。酒癖の悪い床屋の大将を連れて吉原へ繰り出します。 | 三遊亭圓歌・桂米朝・古今亭志ん朝・古今亭志ん生 |
万歳の遊び | 万歳師の大夫と才蔵が吉原へ遊びに行き・・ | |
木乃伊取り | 若旦那が三日も帰らない。心配して探し回りますと吉原の角海老で居続けていることがわかります。 主人は番頭に命じて迎えに行かせますが… | 三遊亭圓生・立川談志・柳家さん喬 |
山崎屋(よかちょろ) | 遊び人の若旦那、徳三郎に三百円の集金を頼んだところ、ここ三日ほど帰ってこない。 | 立川志の輔・三遊亭圓生・林家正蔵・立川談志・三遊亭金馬 |
六尺棒 | 道楽息子の孝太郎、「床屋へ行ってくる」と言って吉原へ行き、十日居続けた夜、家に帰ってきて店の戸を叩きます。 | 立川談志・古今亭志ん生・三遊亭小遊三他 |
滑稽噺(8話)
艶笑落語はもちろん、酒飲みの噺、残酷な噺8話が対象となりました。
黄金餅なんか真っ先に上げられそうですが、対象にはなってないんですね。
親子茶屋 | ある商家。旦那に言いつけられ、丁稚が若旦那を呼びにいきます。よく飽きもせず説教ばかりと、小言を軽く聞き流し、馴染みの芸者ののろけを言いい出す始末。 | 桂米團治(四代目・五代目)・桂米朝 |
蛙茶番 | ある商店で店の者や出入りの商人が茶番(素人芝居)をやることになります。店に舞台を拵えて準備万端ですが幕が開きません。 | 三遊亭圓生・三遊亭金馬・柳家小三治・三遊亭小遊三 |
後生うなぎ | あるご隠居。信心深く、殺生はしない。蚊に血を吸われても痛い痒いを我慢して吸わしてあげるほど。 | 桂歌丸・古今亭志ん生 |
疝気の虫 | ある医者が変な虫を見つけ、「つぶしてしまおうか」と呟きますと、虫が「助けてください」と言います。 | 古今亭志ん朝・立川談志 |
高尾(反魂香) | 長屋に住む八五郎、夜中にカネが聞こえるのが気に掛かり | 古今亭志ん朝・桂春團治・三笑亭可楽他 |
にせ金 | 酒癖の悪い士族。道具屋の金兵衛に「お前の狸並の金玉を譲れ」と言い出し・・ | |
不動坊 | 長屋に住む利吉に大家さんが訪ねてきて、旅先で死んだ不動坊の女房と一緒になる気はないか聞き | 桂米朝・柳家小さん・桂吉朝・桂枝雀・桂ざこば |
目薬 | 目がかすんで薬屋に行った男、薬屋に「中に効能書きが入っているのでその通りに」と薬を渡されます。 | 露の五郎・橘家文左衛門・春風亭小朝 |
間男・夜這い・不義密通(7話)
男が戦地へ行っているのに、間男をするとは何事か!というような発想でしょうか。
紙入れ | 貸本屋の新吉。出入り先のおかみさんと割りない仲が続いています。おかみさんから、今日は旦那の帰りがないから泊まりにおいでと手紙をもらい、それを紙入れにしまって出かけます。 | 古今亭志ん生・柳家喬太郎、桂米朝、立川談志・金原亭馬吉 |
口入屋(引越しの夢) | 船場で古手屋を扱う商家に、口入れ屋を通じて別嬪の女中が来て・・・ | 桂米朝・古今亭志ん朝・三遊亭圓生・桂枝雀 |
駒長 | 借金だらけの長兵衛とお駒の夫婦。お駒がどうするのだと聞きますと「あれば返すがないものはしょうがない」 | 古今亭志ん生・古今亭志ん朝 |
城木屋(白木屋) | 江戸一番の評判の美人と言われる城木屋のお駒に思いを寄せる一番番頭の丈八は非の打ちどころのない醜男。丈八はなんとかお駒の気を引こうとしますが | 桂歌丸・三遊亭圓生 |
町内の若い衆(氏子中) | ある職人の男が、大将のところを訪ねますと、応対に出たおかみさんがお茶を出し、生憎寄り合いにでかけて留守だと言います。 | 古今亭菊之丞・古今亭志ん生・三遊亭圓楽・柳家権太楼 |
つづら間男 | 自分の女房が、質屋 伊勢屋の主人と間男していると聞いた男、家に帰ると男物の下駄。部屋のつづらを開けようとしますが・・ | 五街道雲助 |
庖丁(包丁間男) | 清元の師匠に生活全般面倒をみてもらって小遣いまでもらっている久治。弟分の寅を相談があると呼び出します。 | 三遊亭圓生・桂文珍 |
悋気(4話)
悋気は女の慎むところ。
悋気しすぎても悋気をしなさすぎても禁演対象になりました。
権助提灯 | ある商家の旦那、妾を囲うことになったと妻に言いますと妻は快く承知します。ある夜、妻が「うちは大勢いますから心配ないが、今日は風が強いから向こうへ行ってお泊りになってはいかがでしょうか」と妾の家に行くように勧めます。 | 立川談志・三遊亭圓遊・古今亭文菊 |
悋気の独楽 | あるお店の主人、たびたび家に帰ってきません。御寮さんは妾を囲っているのではと奉公人たちに聞いて回りますが要領を得ません。 | 桂文枝・桂文珍・入船亭扇辰・桂小南 |
一つ穴 | 旦那に女ができたという噂を聞いた女房、飯炊きの権助に旦那の伴をして様子をさぐるように言いつけます。 | 三遊亭圓生 |
星野屋 | 星野屋の旦那、水茶屋で馴染みのお花に大事な話がある、今日限り私と別れてもらいたいと言い出し、手切れ金二十両を差し出します。 | 桂文珍・古今亭志ん生・桂文楽 |
人情噺(2話)
お国のために戦い死ぬことも厭わないのが国民の務め。
親子の情も夫婦の情も戦時にあっては不適切とされました。
子別れ | 腕はいいが酒好き遊び好きの大工の熊五郎。三年後、偶然息子に出会い、母子が苦労をしているのを聞きます | 古今亭志ん朝・古今亭志ん生・立川談志・笑福亭松鶴・三笑亭可楽 |
宮戸川 | 将棋に凝っている半七、今日も夜遅くまで碁会所に入り浸りで家に帰りますが家に入れてもらえません。一方、半七の幼馴染で向かいに住むお花も友達の家で歌加留多をしていて遅くなり、締め出されたといます。 | 柳家喬太郎・古今亭志ん朝・古今亭志ん生・立川談志・三遊亭円楽 |
戦後の禁煙落語(20話)
戦中の禁演落語が5年ぶりに解除された昭和21年9月から1年も経たない昭和22年の5月、
GHQの指令によって婦女子の虐待、軍国主義、暴力や荒唐無稽に過ぎるものが対象になって禁じられた20の演目で、これらの噺は再び「はなし塚」に葬られます。
落語よりも被害が大きかったのは芝居や映画で、500以上の演目が禁止されましたが徐々に解除されていき、落語の禁演も名目上はGHQの占領が終わる昭和28年までの7年間に渡って続きますが、実際には2年後の昭和24年には再び本法寺で復活祭が行われています。
お七 | ||
景清 | 失明した彫金職人の定次郎が眼病に効くといわれる柳谷観音へ | 桂米朝・桂文楽・桂枝雀他 |
岸柳島(巌流島) | 浅草の渡し船で浪人が銀のキセルをふかし、雁首を川の中に落としたことから | 古今亭志ん生・三遊亭圓生・三笑亭可楽・立川談志 |
肝潰し | 病気で寝ている友人のために妹を殺して肝をとろうとしますが | 桂ざこば・柳家さん喬・三遊亭圓生・桂米朝 |
くしゃみ講釈 | 東京から来ていた講釈師 後藤一山のために女に振られてしまった男が復讐のために | 桂枝雀・三遊亭金馬・桂吉朝・春風亭一之輔・桂米朝 |
袈裟御前 | ||
後生鰻 | 信心深く、殺生はしないご隠居がある日、浅草天王橋で鰻屋が鰻をさばこうとしているところを見て | 桂歌丸・古今亭志ん生 |
高尾 | 島田重三郎が吉原三浦屋の高尾大夫の幽霊を呼び出したのを見た八五郎は | 古今亭志ん朝・桂春團治・三笑亭可楽他 |
ちきり伊勢屋 | 伊勢屋の若旦那傳次郎が、易者の白井左近に来年の2月15日に死ぬと言われ | 三遊亭圓生・林家正蔵・三遊亭金馬 |
城木屋 | 江戸一番の評判の美人と言われる城木屋のお駒に思いを寄せる醜男の番頭 丈八 | 桂歌丸・三遊亭圓生 |
宗論 | ある商家の旦那。番頭に倅の藤三郎が朝からでかけて帰って来ない、きっと教会に行ってるんだ。うちは代々の浄土真宗なのに、 | 柳家小三治・柳家権太楼・三遊亭圓橘 |
将棋の殿様 | 将棋に凝りだした殿様が家来を相手に毎日将棋を指します。 しかし、駒も自分では並べず、自分の駒が取られそうになると「お取り払い」「お飛び越し」など無茶なルール。 | 柳家小さん |
写真の仇討(指切り) | 宴会で親切にされた芸者と馴染んで貢いでいたが、その芸者に男があった。女を殺して自分も腹を切ると言う信次郎に、叔父は中国の故事を話します。 | 林家正蔵・桂小南・三遊亭円歌・雷門花助 |
寝床 | 下手な義太夫に凝っている商家の旦那。今夜もみんなに聞いてもらおうと長屋の連中を呼び集めますが | 桂枝雀・立川談志・志ん生・志ん朝他 |
花見の仇討 | 仲の良い四人組。ただ花見だけしてもしょうがないので江戸中の話題になるような趣向、巡礼兄弟の仇討ちってのはどうだと | 柳家小三治・桂南光・三遊亭圓楽・三遊亭金馬・立川談志 |
桃太郎 | 父親が子供にも桃太郎の話を聞かせながら「早く寝ろ」と言いますと | 桂米朝・柳亭痴楽 |
毛氈芝居 | さる東北の殿様。芝居というものを見てみたいと一座を呼び寄せ | 林家正蔵・古今亭志ん生・古今亭今輔 |
宿屋の仇討(宿屋仇・庚申待) | 旅の宿 騒々しい隣の部屋の男たちに業を煮やした侍が | 桂米朝・立川志の輔・古今亭志ん生他 |
山岡角兵衛 | 赤穂の浪士の山岡角兵衛が病床につき、今際の際に娘のお縫を呼んでどうか遺志を継いでほしいと頼み、お縫は吉良上野介に妾奉公に入ります | 三遊亭圓歌 |
四段目 | あるお店の小僧、定吉。 芝居好きで、何かの用事を言いつけられるとその帰りに芝居を観てなかなか帰らない。 | 古今亭志ん朝・桂米朝・三遊亭圓歌・桂枝雀 |