緑林門松竹(またかのお関)~林家正蔵・三遊亭圓生






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悪人ばかりの連続毒殺事件

医者 山木秀永の家・緑林門松竹(1)~林家正蔵

【音声のみ】林家 彦六(8代目林家 正蔵) 「緑林門松竹 ① 医者秀英の家」

根津七軒町に山木秀永(やまぎしえい)という医者がいて、大層繁盛しております。この下男で田舎から出てきた新助という無愛想な飯炊男を伴に、木場の近江屋に向かいます。両国広小路にかかったところで、秀永は新助に鼻紙を買って来いと言いつけます。新助は自分を巻こうということかと思って秀永の行先を見ておりましたが、弁天の路地を曲がったところで見失います。

ある家で話し声がするので塀の節穴を覗きますと、秀永が「伴を巻くのに苦労した」などと話しています。妙齢の女と一緒に座敷へ上がって、子供の具合はどうだと聞く秀永。新助は子供も作っていたのかと思いながら見ていますと、秀永に気づかれて入って来いと言われます。

女は”おすわ”と名乗ります。新助は気を利かせて「今から帰って御新造さんには木場の近江屋さんに行ってご馳走になり、先生は碁が始まったので今日は帰らない」と伝えると言います。秀永は新助に口止め料だと一分を渡しますと、新助は「家には毒薬はあるか」と聞きます。

秀永は、「蒼白譽石(そうはくよせき)という恐ろしい毒があり、耳かき一杯で人は七穴から血を履いて死ぬ」と答えますと、新助は「この間薬味箪笥で木の皮のようなものを見つけて噛んでみたら甘いのでみな食べたらのぼせて鼻血が出た」「それは肉桂だ。毒は錠をかけてあるので大丈夫だが、薬の中には毒になるものもあるからやたらに薬箪笥をかきまわしてはいけない」と言います。

新助が家に帰り、秀永の女房に「旦那は本所の弁天の脇に女を囲っており、赤子もできた。今の女房を追い出したいが自分は養子、蒼白譽石の毒薬を三度三度の飯に少しずつ入れているので女房が死ぬまで待て」と言っているのを聞いた。すぐに逃げ出して、自分の在所にでも行ったほうがよいと勧めます。

これを聞いた女房、新助に感謝し「家に未練はないがその前に妾の家に行って秀永に恨み言をぶちまけやる」と泣きます。新助が案内をすると言いますと、「蒼白譽石の毒を持って行って秀永に見せたら自分に渡してくれ。こんな毒があるから人を殺そうという了見になる。川へ持って行って捨ててしまう」と言って毒を取り出させます。

三味線堀にかかりますと大名屋敷が並び、夕暮れであたりは暗く人通りもありません。

三味線堀の殺し・緑林門松竹(2)~林家正蔵

【音声のみ】林家 彦六(8代目林家 正蔵) 「緑林門松竹 ② 三味線堀の殺し」

新助は突然女房のたもとを掴んで「一夜の情けを」と言い出します。女房は断り、簪を抜いて身構えますと、新助はいきなり江戸言葉になり、自分は盗人で江戸にいられなくなって諸国を廻っていたのだと言い、匕首を抜いて女房を刺し殺してしまいます。

本所へ向かった新助、おすわの家の戸を叩いて秀永を呼びます。新助は「ひさしぶりに外へ出たので、田舎者の気散じにぶらぶらと歩いてようやく家に帰ると、灯りもついていない。裏から入ると家の中の目ぼしいものが持ち出されて御新造様もいない。自分の考えではご新造様に男でもいたのじゃないかと思う。一度七軒町のお宅まで戻ってほしい」と言います。

秀永は驚き、新助と一緒に家に帰って新助に門を開けさせますと屋内は新助の言った通り散らかったまま。急いで来たので「水を一杯ほしい」という秀永に新助が水を飲ませますと、秀永はにわかに苦しみだし、口から血を吐いて亡くなります。新助は、秀永の着物を剥いで自分が着て頭巾もかぶって本所へ向かいます。

おすわの家に来た新助。おすわは秀永が来たものと思って中へ入れ、新助は座敷でおすわと酒を飲み、やがて枕を交わします。新助が布団の上にあぐらをかいて煙草を吸っていると、赤子が泣き出し、目を覚ましたおすわが子に乳をやり、秀永は布団の上で煙草を吸うようなことはしないはずと見ると、秀永ではなく昼間に来た新助。

「俺は泥棒だ。旦那を殺してこっちへ来た。枕を交わせば女房同然、俺と一緒に江戸を離れないか、嫌だと言ったら赤ん坊を殺す」と迫ります。おすわは「子供を助けてくれるなら、お前の言うことを聞きます」と承知をします。

二人は夜が明けるのを待って江戸を出て、八丁畷原之郷で茶店を開きます。新助も真面目に働き、日々の生活に困らないほどに繁盛していました。ある日、年寄りと若い娘の二人連れが店に来て、駕籠屋が酒手をせびって仕方がないと聞いた新助が駕籠屋を追い返します。

店に入った二人に茶を勧め、年寄りが「江戸から来た。鳥越で手習いの師匠をしていた」と聞くと、「自分は安倍川町の魚屋の息子の新助で、先生に習った」と言って逗留を勧め、蒼白譽石の毒を盛って年寄りを殺します。

原之郷の茶店・緑林門松竹(3)~林家正蔵

【音声のみ】林家 彦六(8代目林家 正蔵) 「緑林門松竹 ③ 原ノ郷の茶店」

江戸の叔母のところへ帰るという娘を駕籠に乗せ、源次という悪仲間をつけて送り出した新助。女房になったおすわが、新助が年寄りに毒を盛って殺したと聞いて、何故自分の師匠を手に掛けたのかと聞きますと「俺に考えがあったからだ。娘の行き先は叔母の家ではなく、吉原だ。あの器量ならいい見世から引合があるだろう」と笑います。

「お前は人間じゃない、師匠も恨んでいるだろう」と言うおすわですが、新助は相手にしません。そこへ帰ってきた源次。女衒も喜んで二百両を寄越したと報告しますと源次に百両を渡し、一緒に飲みに行こうと誘って出かけます。

その夜、おすわが寝ている子供を起こし、「話して聞かせることがある」と切り出します。「お前の今のお父っつぁんは本当の親ではなく、七軒町で医者をしていた山木秀永。息子のお前に一字をとって永太という名前にした。秀永を殺したのが今のお父っつあん。いわば親の仇。お前が成長していつかは仇を討ってもらいたい。しかし、悪いことばかりをしているから、いつお縄になるかも知れない。お前も五つになったのだから自分が手伝いをするので、酔って帰ってきて寝たところを秀永の形見の脇差しで仇討ちをしよう」と話します。

帰ってきた新助が寝てしまいますと、子供を呼んで脇差を持たせ、喉笛を掻き切るのだと教えて新助の枕元へ。

新助 原ノ郷の捕物・緑林門松竹(4)~林家正蔵

【音声のみ】林家 彦六(8代目林家 正蔵) 「緑林門松竹 ④ 新助市原ノ郷の捕物」

二人が脇差しを持って突き刺そうとしたところ、新助が寝返りをうって脇差しは畳を通して根田まで刺さってしまいます。気配に起きた新助「よくも俺の寝首を掻こうとしたな」と言い、子供に「何でも買ってやるから」と言って刀を持ってこさせ、子供とおすわを斬り殺します。

そこへ戸を叩いて源次が飛び込んできます。行灯に火を入れて二人の死骸をみつけて驚きますが、新助は「俺を仇と狙ってきたので斬ったが気にすることはない」と言い、「お前の慌てているのは何だ」と聞きます。

源次は「本所からの捕り方が二十人ばかり集まって新助を捕まえにきたから早く逃げろ」と言います。源次にむすびを作らせ、旅支度を済ませた新助は「赤城山に逃げるからはぐれたら荒神の入り口で待っていろ」と言って源次を裏口から出します。

雨戸を開けて出ようとした源次を捕り方が囲みますが、源次は道中差しを抜いて振り回して逃げ、新助も表から出て捕り方を振り切って闇にまぎれて逃げてしまいます。回り回って江戸へ帰った新助、悪仲間の按摩 幸治のところへ世話になり、流しの按摩として暮らしだします。

話変わって、車坂に安倍晴明堂という易の家があり、主人は二十六・七の器量のよい大年増。客の手相を見ながらニコリと笑うの見たさに多くの男が通っております。

この女主人、”またかのお関”といい、器量はよいが若い頃から手癖が悪く、女郎屋に身を沈めたがお客の枕探しを繰り返し、主人も呆れて証文をまいて年季をあけさせたという莫連者。体一面におろちの彫り物をして、強請り、騙り、美人局をして今の易所を開いて表向きは堅気で暮らしています。

お関の亭主は、下谷界隈の巾着切り(スリ)の大親分で体一面に桜の彫り物をしていることから”小桜平吉”。成りが小さいので”小僧平吉”とも呼ばれている悪党。平吉は「金沢屋の若旦那が惚れ込んだ吉原金瓶大黒の花扇花魁の身請けに二百両いるがどうしたものか」と話すと、お関は「金は天下の回りもの、心配することはない、二階で子分達と手慰みでもしておいで」と言います。

そこへ按摩の笛の値が聞こえたので、お関は子分に命じて呼び入れ、按摩はお関の肩を揉みはじめます。

またかのお関・緑林門松竹(5)~林家正蔵

【音声のみ】林家 彦六(8代目林家 正蔵) 「緑林門松竹 ⑤ またかのお関」

按摩がお関の肩を揉みながら「よく凝っている、華奢な体、お顔もさぞお美しいのでしょうな」と褒め、「いろいろなお客様がいらっしゃいます。夫婦喧嘩の最中に呼ばれてとばっちりを受けた」など話をしたあと、自分は”新”と言い、「江戸で生まれ育っていろんな道楽や博打場出入りをし、金が入れば吉原通い、そのうちに風眼という病になって眼が見えなくなり、今の師匠に家に奉公をして覚えた揉み療治で暮らしております。」と身の上話をします。

お関は「眼を開けて正体を表わせ」と言い、お前は”新助市五郎”という二つ名を持つ盗人だろうと言います。新助は、またかのお関と聞いて安心し「眼を開けようと思えばこの通り開くが、鳥目になって夜はよく見えないのだ」と言いながら、お関に聞かれるままに、山木秀永や女房、子供を殺し、悪事をしつくしてきたと話します。

新助市の最後・緑林門松竹(6)~林家正蔵

【音声のみ】林家 彦六(8代目林家 正蔵) 「緑林門松竹 ⑥  新助市の最後」 完

お関の家に住み込むことになった新助。子分に命じて、酒の支度をさせます。昔の仲間の話をしながら飲む二人、博打打ちをしていた”やんま九次”は「自分の生まれた旗本の屋敷に金を取りに行ったが、客の剣術師範に屋敷の腹切りの場所に引きずり込まれて腹を切れと言われた。九次は泣いて詫びて母親を呼び、母親が命乞いをして事なきを得たが、改心をするどころか剣術師範の姿が見えなくなると悪態をついた」という。

新助は、今、二百両の金があるとお関に渡し「金はいくらでも手に入る、モトはこの蒼白譽石という薬だ。これも俺の手土産だ」と言って渡します。酒が進んでいい気持ちになった新助。他の座敷も見せてもらおうとお関に家を案内してもらい「もとの座敷で飲み直そうと思うが酔い覚めの水がほしい」とお関に頼みます。

水を飲んだ新助、胸が苦しくなったと言いますと、お関は「お前のくれた蒼白譽石を水に入れた。二百両あればお前は邪魔だ」と言い放ち、新助は血を吐いて死んでしまいます。

二百両を持って、小僧平吉が金瓶大黒に行って花扇の身請けの話に行ったところ、この二百両が偽金とわかります。捕り方から逃れてお関のもとに帰ってきますが、ここらが年貢の納め時だろうと自首をしてお裁きを受けます。

またかのお関~三遊亭圓生

こちらは按摩に身をやつした新助とお関の再会からの話です。前段は新助の話を通してわかるようになっていますので、さらっと聞きたい方はこちらのほうがわかりやすいかもしれません。

覚書

大圓朝が二十代の頃に作った噺で「忍岡義賊の隠家」(しのぶがおかぎぞくのかくれが)を「やまと新聞」への連載を期に改題して「緑林門松竹」(みどりのはやしかどのまつたけ)。

全二十席の人情噺(世話噺)を、彦六の正蔵が六話にまとめ、この口演は1975年、正蔵80歳の時の録音です。残念ながらCD化はされておらず、カセットテープも中古で手に入るかどうか、というところです。

彦六の弟子の林家正雀、五街道雲助、蜃気楼龍玉が持ちネタにしています。

新吉は全体から見れば物語の前半の主人公で、中盤から後半は毒薬を手に入れたお関がまた人を殺しまくるといういうなんとも救いようのない悪人ばかりです。噺に出て来る”蒼白譽石”(そうはくよせき)は、酸化ヒ素のことで、強い毒性があり、医療用には腫瘍や皮膚病の治療に使われた他、害虫や鼠の駆除にも使われていました。

圓朝の速記本ではただ”毒”とされていましたが、後年に毒名を明らかにすることで怖さを付け加えたのだろうと思います。同じヒ素系で”石見銀山”も猫いらずのねずみ取りとして有名でしたが”譽石”(よせき)のほうが怖い気がします。

また、新助が”風眼”で失明したというくだりがありますが、淋菌性結膜炎のことで淋病の菌が眼に入って起こり、膿が止まらず角膜が侵されて失明に至る性病の一種として、同時は梅毒と並んで恐れられていました。

円朝の速記本は、国立国会図書館のデジタルコレクションで読むことができます。
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/891461

落語 緑林門松竹・またかのお関 ディスコグラフィ

三遊亭圓生
CD

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