『お笑い・漫才芸人列伝』
古今東西のお笑い・漫才芸人の貴重な映像・音声を集積。
明治・大正・昭和・平成・令和の数々の芸人を、映像と音声で紹介します。
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余韻の残る新作人情噺
水神~三遊亭圓生【動画】
発端 おこうと杢蔵
浅草三囲神社の縁日の夜。男が火のついたように泣く乳飲み児を抱いておろおろとしています。声をかけられて見ると、露天で卵や柿、魚など、どうも取り合わせのおかしいものを売っている二十五・六で黒ずくめの着物を着た美しい女。
「お腹が空いているのだろう」と自分の乳を含ませますと、子供はむさぼるように飲み、やがて安心して眠ってしまいます。女が「この子の母親はどうしたのか」と聞きますと、男は「自分の働きが悪いので女房は愛想がつきたと、この子を置いて何処かに出ていってしまった」のだと話します。
女に礼を言い、名前だけでも教えて欲しいと言うと女は「こう」と名乗り、男は「屋根職人の杢蔵だ。この御恩は一生忘れません」と感謝します。杢蔵が子供を引き取ろうとしますと、「今夜帰ってもお乳がなければ困るでしょう、私のところへおいでなさい」と、おこうは店をたたみ、児を抱いて男を水神の森にある自分の家へと案内します。
水神の森 おこうの家
夕餉の支度をして出してくれ、子供にお乳をやって寝かしつけてしまう。「布団は一組しかないが一緒でよかったら泊まっていきなさい」と言われ、それから杢蔵とおこうは一緒に住むことになります。
おこうは子供を抱いて毎日縁日に商いに出かけ、怠け者の杢蔵も屋根職人として真面目に働き、知らず知らずのうちに小金も貯まって、幸せな日々が四年続きます。
おこうの正体
ある朝のこと、杢蔵が目を覚ますとおこうはまだ眠ったまま。こんなことは初めてだ。よほど疲れているのだろうと思い、おこうの布団を掛け直してあげようと見ると、顔はいつもの女房だが、体は水に濡れたようなカラスの羽。
杢蔵は烏の化物だと驚きましたが、考えてみればこんないい女が女房になってくれて子供を育ててくれるわけがない。ありがたく思わなければいけないと思い直します。そっと部屋を出ようとすると、「お前さん」と声をかけられ、普段と変わらぬ姿のおこうが「私の姿を見たでしょう」と言う。
杢蔵が「ちょいとだけ」と答えると、おこうは「正体がわかってしまったらもうこうしているわけにはいきません」と話し始めます。
水神との約束
自分はこの水神さまの使い姫の雌烏で、神様から頼まれて霞ヶ関まで行ったが、まだ若い私は途中の河原でおもしろく遊びほうけて御用が大変遅くなった。神様が大変お怒りになって「お前のようなものは使い姫にしておけないから暇をやる。しかし、野ガラスになって田畑を荒らすようなことをしてもいけない、五年間人間の女にして置くから、それが無事済んだら元の使い姫に戻す」と言われた。
人間になってどうして暮らしていこうかと心配しましたが、ふと思いついてカラスになって山に入り、主のない柿や魚などを採って縁日で売って生活をしていました。
あなたの事も空から見て知っていました。子供を置き去りにして出ていくとは人間というものはなんという情けないものかと悲しくなり、子供を育ててやりたいとお前さんと夫婦になったのですが、あなたに正体を見られては、もうもとの烏にならなければいけませんと泣きます。
おこうと杢蔵の別れ
杢蔵がどうか今のままでうちにいてくれと頼みますと、おこうは、お前さんがそれほどまでに言ってくれるのはうれしいけれど、私の勝手にはなりません。神様との約束にはまだ一年あるので私は野ガラスの群れへ入るかもしれないが、お前さんがそれほど思ってくれるなら、と黒羽織の様な物を取り出し「これを着れば私のように烏になって一緒に行ける」と言います。
杢蔵が、俺は不器用だから烏になって生きていけるか不安だと躊躇していると、おこうは、「お前さんに烏になれというのは無理かもしれない。私のことをたまには思い出してください」と言うと、止める杢蔵を振り切り、一陣の風とともに姿を消し、住んでいた家もたちまち消えて空にはカラスの群が舞っています。
傍らに寝ている寝ている子供を起こしますと、子供は「朝早くから起こされて水神様に遊びに行こうと言われて連れてこられた」のだと言います。不思議に思いながら、子供に「家に帰れるか?」と聞いて後について帰ってみると、そこはもと住んでいた家で、諸道具が揃い家の中もきれいに片付いている。
近所にそれとなく聞いてみると、怠け者だったお前が女房に出て行かれてからは真面目に働いて、男手ひとつで子供を育てて偉いと褒められる。してみると、おこうはみんなには見えず、影ながら家族を守ってくれていたのだと杢蔵は思い、おこうへの思いが募ります。
杢蔵の落胆 おこうへの想い
元の女房が、近頃杢蔵の様子がいいらしいと訪ねてきて「元に戻ってきてやろうか」と言いますが、杢蔵は「出て行け」と追い返します。それからは男手ひとつで一生懸命働いて子供を育て、十二の時に浅草の呉服屋に奉公に出します。
息子も主人に気に入られて真面目によく働き、年季が明けますと娘の婿になって店を継いでほしいという話になり、養子に入ることになります。こうなると息子は養子の悲しさ、杢蔵が会いに行ってもあまりいい顔はしない。用もないのにあまり来ないでくれと言われて杢蔵は寂しい思い。
あてもなく歩いていると、いつの間にか水神に来ている。カラスの群れに、「おこうはいるか」「おこうを知らないか」と近くへ行きますが、カラスは逃げてしまいます。
「枯れ枝に烏の止まりけり秋の暮れ」
よほど寂しくなったのか、杢蔵はおこうにもらった黒い羽織を脇に抱えて大屋根に昇り、おこうの名を呼んで、「俺はもう人間に愛想がつきた。どうなるかわからないが、烏になってお前に逢いたい」と羽織に袖を通します。
覚書
劇作家の菊田一男が圓生のために書き下ろした一席。
圓生以降は林家正雀が演じて好評を得ています。正雀は、前の女房が男を作って出ていったという演出に変えて、再び訪ねてきた時に追い出す杢蔵をさらに正当化しています。
また、養子に入った息子が杢蔵を追い返すくだりでは、杢蔵が帰ったと聞いた妻が「それは残念。本当にあなたはいいお父っつぁんをお持ちだと、私も、私のお父っつぁんもお母さんも始終話しているんですよ」という台詞を加え、この店の人達も悪くなく、息子が養子であることで店に気をつかって杢蔵に冷たい態度を取っていたのだという演出にしています。
昔話のような味わいのある人情噺で、もっと多くの人が手がけてくれないかと思っています。
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