箒屋娘~桂小南






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箒屋娘~桂小南

船場で木綿問屋を営む相模屋。若旦那の宗三郎は、いつも部屋で本ばかり読んでいます。大旦那の宗兵衛は論語読みの論語知らず、世間知らずなのも困るし、閉じこもってばかりでおかしな病気にでもなれば大変と、番頭に外へ出かけるようにしてくれと頼みます。番頭は宗兵衛を説得して丁稚の亀吉を呼び、これから若旦那が住吉詣りをするのでお供をするように言いつけます。

番頭は亀吉に百両の金を渡して「きれいに使って来い。一銭も残らず使って帰れば正月とお盆の薮入りを十日間にしてあげる。金を残して帰って来たら暇を出す」と言って二人を送り出します。

店の者は七、八十人もいるが番頭と亀吉以外は若旦那を見るのが初めて。わいわいと騒ぎながらずらっと並んで宗兵衛を見送ります。船場から南へ。道頓堀から住吉街道に入ると参詣人で賑わっています。天下茶屋あたりにずらりと並んでいる茶店に入ると、店の女子衆は色白で役者顔負けの宗三郎を見て色めきたっています。

宗三郎がお茶を飲みながら通りを見ていると、箒を束ねて、参詣人たちに「父が長の患いで難儀いたしております、どうぞお買い求めを願います」と売っている娘が目にとまります。年の頃なら十七、八、継ぎはぎだらけの着物だが器量の良い娘。

宗三郎は亀吉に娘を呼ばせ、箒を全部三両で買い取ります。「そんな大金を見ず知らずの人から受け取れば父親から叱られます」というので、宗三郎は所と名前を書いて娘に渡します。喜んだ娘は、少し歩いては振り向いて礼を述べ、また少し歩いては礼をと何度も繰り返しながら帰って行きます。

宗三郎は住吉大社へは行かず、小走りで娘の後を見え隠れしながら追い始めます。亀吉も仕方なく箒の束を抱えてついて行きます。娘が日本橋の長町裏の貧乏長屋に入って行くのを見届けた宗三郎は、通りかかった羅宇屋に煙管の掃除を頼み、内の様子に耳を立てます。

娘が父親に「箒を全部買い取ってもらった」と言うと、元武士の父親は喜びますが、三両と聞き、盗んだのではないかと娘を責めます。宗三郎からもらった書付を見せてやっと父親も納得しますが、箒の代金だけもらって後は返しに行って来いと言いつけます。父娘のやりとりを戸の間から見ていた宗三郎はすっかり感心して船場の店へ駆け戻ります。番頭が亀吉に「どうだったか」と聞くと「住吉詣りはせず、十五両しか使えなかった」と言う。

宗三郎は箒を土産だと言って店の者に配り、番頭に「家内をもらうことにした」と言い出します。「もしも、いけないと言うなら私は死にます」と聞いた番頭は、大旦那に報告します。大旦那は「可愛い一人息子、良いように頼む」と承諾します。

番頭は亀吉に案内させて日本橋へ。近所の人に娘のことを聞きますと、まさに”群鶏の一鶴”、評判の良いことこの上ない。相模屋の嫁にと申し込むと、始めは断っていた父親もようやく得心し、宗三郎の思いが叶ってめでたく祝言を挙げることになります。娘の父親は医者の手を尽くしましたが、安心したか寿命が尽きたか、娘の花嫁姿を見ないまま亡くなってしまいます。

忌明けを待って婚礼、間もなく懐妊して玉のような男の子が生まれます。大旦那も安心して宗三郎に二代目相模屋宗兵衛を継がせて隠居。店はますます繁盛いたしました。

「箒屋娘」という、おめでたいお噺でございます。

覚書

上方にはめずらしい人情噺で、住吉大社沿道に並ぶ乞食や茶屋の風情も時代が感じられます。ただ、上方落語なので昔はこの噺にもオチがありました。

” 晴れて一緒になった婚礼の翌朝、娘が家を出てしまいます。番頭は何があったのか、昨日どんなことをしたのかと聞きますと、若旦那は初夜にこの春画の通りにしたのだと言います。(冒頭、番頭が若旦那を諭す場面で、番頭は若旦那に茶臼(女性上位)の春画を渡し、こういう遊びも憶えておいたほうがよいと言うくだりが付け加えられます。)

番頭あきれて「最初からこんなことしたらあきまへん、相手は箒屋の娘。逆さにしたら帰りますがな」でサゲになります。

客に帰ってほしいときに、玄関に箒を逆さにして立てるというのは昭和の中頃まではよく知られていたまじない(俗習)でしたが、現在では箒がある家のほうが少なく、この俗習自体がわからなくなっています。

何よりせっかくいい話なのにバレ噺にしなくてもいいじゃないかということでご参考まで。

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