上方の旅ネタ

上方には、旅ネタと言われる旅の噺が数多くあります。
続き物で何日にも渡って続き続きで演じられるもので、奇想天外なばかばかしい噺ばかりです。

江戸落語では続き物では圓朝作の怪談や世話噺などじっくりと聞かせる物語が主流でしたが、上方にはこういうものはありません。

東西南北、天国地獄そして竜宮へ

「東の旅」の口上にもありますが、この旅ネタ、主に喜六に清八という二人が主人公となって大阪から東西南北、天国地獄、そして竜宮へも行きます。

●東の旅

まず東の旅は「伊勢参宮神乃賑」(いせさんぐうかみのにぎわい)。大阪から玉造、深江、暗峠から奈良を通って伊勢へ。帰りは鈴鹿から大津へ抜けて京から大阪へと二十数話にのぼるもので、一日一話でも一ヶ月近くかかります。

廃れてしまった噺もありますが、「蟇の油」「七度狐」「うんつく酒」や、「三人旅浮之尼買」「三十石夢乃通路」など、現在も東西で演じられる名作もここから生まれています。

伊勢参りの噺ながらその行き帰りだけで肝心の伊勢参りの噺がないというのが通説でしたが、伊勢神宮の名所を巡る「宮巡り」が桂文我が発掘して演られるようになり、独演会では完全通しでの口演も行われました。

●西の旅

西の旅は四国の金毘羅さんへ詣った喜六と清八が、帰りに姫路に入り、明石、舞子、須磨へ立ち寄って鍛冶屋町の港から船で大阪へ帰る「兵庫船」の道中。

それぞれの土地の風物の話が主になっていて、風情を感じるいい話ではあるのですが笑いをとるところが少ないためかあまり演じ手がいなくなってしまいました。

●南の旅

南の旅は「紀州飛脚」。これは巨根の男のバレ噺で、米朝が復活させたものですがあまりにえげつないと高座にはかけませんでした。

●北の旅

北の旅は「池田の猪買い」。少し間の抜けた、江戸で言う与太郎が大阪から池田の山奥まで猪を買いに行く話で現在も東西で語られます。

●天空の旅

天空の旅は「月宮殿星都」(げっきゅうでんほしのみやこ)。つかんだ鰻が逃げるのを追って屋根へ上がった男が、鰻に天空へ連れて行かれて雷の世話で変わった料理をご馳走になり、月宮殿へ向かいます。

●地獄の旅

地獄の旅は「地獄八景亡者ノ戯」(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)。桂米朝の十八番中の十八番で一時間以上の大ネタながら、地獄めぐりから人呑鬼の腹中まで抱腹絶倒で時間の経つのを忘れてしまいます。

●海中の旅

海中の旅は「龍宮界龍都」(りゅうぐうかいたつのみやこ)。「小倉船」の題のほうが通りがいいかもしれません。船から金を落とした男が、長崎で仕入れたというフラスコに入って海底へ。竜宮城で浦島太郎と間違われます。

旅の落語一覧

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